交通ルール啓発ブログ

 政争の具にされた改正道路交通法

去年6月14日成立・今年6月1日施行の改正道交法により、75歳以上の運転者が「高齢運転者標識(別名・もみじマーク)」を表示せずに運転した場合は罰するとの、警察庁交通部の方針が撤回されたことは本日のマスコミ各社が一斉に報道しており、皆さんの耳にも届いていることと思う。
一見して、「運転者への矯正一辺倒」の姿勢を警察が改めたことを評価すべきことに映るが、その決定の経緯をよく精査していくと交通行政の在り方に一抹の不安を感じさせずにいられない。
今回の政策転換で露わになった「有理なき交通行政」を検証していく。


今年6月の改正道交法施行で、75歳以上の高齢者ドライバーに罰則付きで義務付けられた「もみじマーク」表示について、警察庁は25日、罰則を撤回し表示を努力義務に戻す同法改正試案をまとめた。正式に法案化し、来年の通常国会に改正案を提出する方針。
もみじマークは「枯れ葉を連想させる」として批判があり、義務化が決まった施行前の5月ごろには、「高齢者いじめ」などと国会で与野党から批判を受けたことなどから、警察でも摘発を1年間先送り。「違反者も指導にとどめる」としていたが、結局、半年で撤回することになった。
現行の改正道交法では、75歳以上の運転者については、車にもみじマークの表示を義務付けられ、違反者には行政処分の点数1点と反則金4000円を科すなど、罰則が盛り込まれている。
同庁が今回示した試案では、この道交法を再改正し、75歳以上の表示義務違反について、「罰則を当分の間、適用しない」とし、70~74歳と同様に表示を努力規定にとどめる。批判を受けたもみじマークのデザインについても、来年1月に有識者らの検討委員会を設置し、変更を検討する予定という。
もみじマークは平成9年の道交法改正で導入。75歳以上に対し、高齢が運転に影響を及ぼす恐れがある場合、車の前後に表示することを求めたが、当初は努力規定だった。平成14年からは70歳以上を対象とするなど、警察庁では高齢者の事故対策を講じた。
しかし、75歳以上について、運転者が原因の死亡事故が10年前の約1.5倍(昨年)に増加。一方、もみじマークの表示率は18年1月時点で35.3%と低迷していたため、政府はもみじマークを努力規定から罰則付き義務に強化した。
もみじマークを再び努力規定に戻すことについて、警察庁は「表示率が約75%まで上昇したため」などと理由を説明している。


政策転換の発端となったのは、改正道交法が施行される一ヶ月前の今年5月8日の衆議院内閣委員会において、民主党の泉 健太議員が改正同法と同様に今年から開始される「後期高齢者医療制度」の名称を引き合いにし、泉 信也国家公安委員長(当時)に「後期高齢者という言い方そのものが高齢者に対する軽視・冒涜ではないかというような話もある。委員長から後期高齢運転者という名称使用の指示はあったのか。」と質問したことに対し、同委員長が「後期高齢者という言葉に多くの国民の皆さん方が不快感を示されておるということを承知しているが、警察の文書の中に後期高齢者という言葉があるということは承知していなかった。この名称をどうするかは警察庁に検討を指示していきたい。」と答え、更に議員から「高齢運転者標識にはいろいろな言い方がされる。『もみじマーク』という言い方が一番メジャーだが、中には『落ち葉マーク』だというふうにいう人もおり、評判が思わしくない。」と前置きした上で「ちょっと不思議なのは、この高齢者マーク(の装着は)警察庁の方に伺ったら『幅寄せを受けたり追い越しを受けたりしないための高齢者の保護』があくまで目的なんだと言っている。にもかかわらず、表示しなかった場合に反則金4千円・2万円以下の罰金・科料・基礎点数1点マイナスを果たしてすべきなのか、どうして表示しなかったときの罰則まで設けなければならないのか。これは乱暴だと思いませんか。75歳以上の方々に6月1日(から罰せられる)というのはもうすぐですよ、もうすぐ。6月1日から本当に表示しなかった場合の罰則ができたら、これは大変なことになりますよ。それでたくさんの高齢者の方々が検挙されるようなことがあったら、これは高齢者いじめじゃないですか。」と問いただしたところ、国家公安委員長は「高齢者を守ろうという趣旨でつくらせていただいた仕組みでありマークであるから、このルールにのっとって6月1日からスタートを切らせていただきたい。」と答弁したこと、また、去年4月18日の第166回国会・参議院本会議において同法改正案に賛成していた自民党・市川一朗参院議員が、今年5月20日の自民党総務会で「後期高齢者医療問題で紛糾しているときに高齢者マークの義務化をすれば大変な問題になる。そもそも高齢者に『枯れ葉マーク』とは失礼ではないか」と蒸し返すなど、国会議員の意見が反映した結果と言われている。

前掲の「後期高齢者医療制度」とは、今年4月から従前の「老人保健制度」を廃止して原則ゼロだった75歳以上の高齢者への保険料に一割の負担を課して、その保険料を受給する老齢年金・遺族年金・障害年金から天引きしたり、低所得による減免判断を厳格に行うなどで世間から批判を受けた医療制度であるが、政府・与党はこの批判をかわそうとして、また野党はこの制度を足がかりに政府への攻勢を強めていた矢先の道交法改正論議だったことから、全く法の趣旨が異なる道交法改正案の審議で「後期高齢者」の語句ばかりを強調した「言葉狩り」に終始したのが、上記の論議のやり取りであった。
くれぐれも申し上げておきたいが、小生は「後期高齢運転者」に当たる人たちの罰則強化を求めている訳ではないし、罰則規定の立法趣旨を明確にさせ、拙速すぎる罰則制定があれば異を唱えることも立法府に身を置く国会議員の役割であるのは充分理解している。

しかしながら、罰則規定の撤回が明確な根拠なくして今後の視野に入れている総選挙のための人気取りであるならば、本末転倒といわざるを得ない。しかも、今回の道交法改正が通常の審議の流れであるならば、これまで罰則規定は必要性もろくに審議せず、国会議員が法の趣旨や条文を理解していないまま可決成立していた、ということになる。立法府の存在意義に疑を挟まざるを得ない由々しき問題である。また、国会議員の思惑により正式な法的手続を経て決定した法律の解釈を警察官僚が曲解させて政策に反映している事も、法規範の遵守に悪影響を与えるのでは、と懸念せざるを得ない。

一方で、加齢による判断能力や視覚・聴覚の低下による交通事故発生の度合いは必然的に高くなることは十分に推認されることであり、自らが高齢運転者標識を掲示しなければならない年齢であることを自覚させて運転免許を自主的に返納させる効果があることから、政策転換すべきでないとの交通事故の被害者・遺族の声がある。心情は理解できるが、運転免許の欠格条項は道交法により明確に定められており、加齢による運転能力の低下が欠格の条件となっていない以上、運転免許を返納するか否かは高齢者の"良心"に委ねられるしかないと考える。

今回の政策転換は、図らずも充分に尽されたとはいえない審議により罰則規定が決まっていく実情が露呈した。道交法をはじめとした全ての法規制をじっくりと見直す時期にきているのではないか。


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 コメント(1件)

#1: ziko0.com @ February 22, 2009 [REPLY]
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こんにちは!

高齢者には限りませんが、運転が著しく危険な状況下になるドライバーをどうするかは、その国の成熟度を表すように感じています。

最近は聴覚障害者が免許を取れるようになりました。国民皆免許へ向かう日本からすると、当たり前の流れでしょう。しかし、高齢者とひとくくりにされているだけの高齢者には、かなり危ない方がいるのも事実。今後どうなるのでしょうか?事故死者数が減ってゆくことで、このあたりの話もウヤムヤになるようにも感じます。

ご都合主義の政治屋の話などはどうでも良いのですが、真面目にマナーを守って運転している人・歩いている人が交通事故に巻き込まれる状況だけは、なくしてゆきたいと思いますね。

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